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お役立ち 2024.04.04

看護の多重課題への対応は5つの視点が大切!優先順位を決める根拠を解説

看護の多重課題とは「おこなうべき課題が2つ以上重なること」です。

 

基本的に、看護師は何人かの患者さんを受け持つため、患者さんへケアをしているときに、ほかの患者さんから呼ばれることもしばしば。
多重課題に対応する方法をうまく指導できずに悩んだことはありませんか?多重課題への対応は、現場での業務を遂行するにあたって必要なスキルです。

 

多重課題の優先順位を決定づける5つの視点や研修をおこなうポイントを解説します。

▼目次

1.看護の多重課題は5つの視点を判断基準に優先順位をつけよう


看護師の多重課題を解決するコツは、以下の5つの視点を判断基準にすることです。

 

1. 生命の維持
2. 安全管理
3. 報告と応援の要請
4. 時間管理
5. ほかの患者さんへの配慮

 

1.生命の維持

多重課題の優先順位を決めるときは「生命に危険があるか」をまず考えます。
すべての患者さんは何らかの病気を抱えており、容態が急変する可能性があります。

 

そのため、患者さんからの訴えや業務が重なったときは、既往歴や経過のほかにすぐに対応しなかったときのリスクを考えて優先順位を決めることが大切です。

2.安全管理

多重課題を解決するコツのひとつは、患者さんの安全を守るという視点で優先順位を考えることです。
安全管理を考える場面でも多重課題がよく起こります。具体的には転倒があげられます。

 

【登場人物】
Aさん:40代。意識レベルクリア。移動は車椅子で移乗は介助を要する。
Bさん:80代。認知症既往。足の筋力低下あり。歩行に介助を要する。

 

【場面】
Aさんのトイレ介助のために車椅子に移しているタイミングで、Bさんが「トイレにいきたい」と言いだした

 

この場面で考えられるリスクは、依頼された順番のままにAさんの介助を優先させた場合、Bさんがトイレに急ぐあまり転倒する恐れがあることです。
「転倒するかもしれない」と考え、リスクを予防することがポイントです。

 

3.報告と応援の要請

「患者さんを危険にさらすかもしれない」と考えたら、ナースコールを押したり「誰か来て下さい」と大声を出したりして、すぐに応援を要請してください。
というのも、多重課題を無理にひとりで解決しようとすると、事故やトラブルにつながるためです。

 

2.の例で考えると、認知症のあるBさんに「順番に対応します」と声をかけても、Bさんから理解を得られないかもしれません。結果として、Bさんが転倒したり失禁したりする可能性があります。

 

ただし、Aさんにも失禁のリスクがないとはいえず、Bさんを優先するとクレームに発展するかもしれません。

 

ここで、さらに同室の別の方が、体調不良を訴えはじめたらどうでしょうか。すべてをひとりで対応することは難しいです。

 

多重課題に対応するスキルは必要であるものの、すべてをひとりで対応する必要はありません。応援を要請することも多重課題への正しい対応といえるでしょう。

4.時間管理

患者さんの状態から生命や安全にリスクがないと判断できたら、次に時間を管理する視点で多重課題への対応の優先順位を検討します。

 

同じ時間に患者さんの予定が重なることはしばしば起こります。スケジュールに余裕がなければ、混乱してミスが起きやすくなります。

 

そのため、あらかじめ検査出しや投薬準備などにどのくらい時間がかかるかを把握することがポイントです。
時間を把握できると、予定外のことにも落ち着いて対応できるでしょう。

5.ほかの患者さんへの配慮

ほかの患者さんへの対応にも注意が必要です。以下は多重課題に直面した看護師が、陥りやすい行動の例です。

 

● 忙しさのあまり口調や態度がきつくなる
● スケジュール管理ができず課題を忘れる
● 「ちょっと待っててください」と抽象的なお願いをする

 

看護師が適切に対応できないことで、事故やトラブルなど患者さんの不利益につながる恐れがあります。
忙しいときこそ患者さんに丁寧に対応することが、多重課題をうまく乗りこえるポイントといえるでしょう。

2.看護師で起こり得る多重課題の事例

看護現場で、多重課題に直面することは多々あります。実際の現場では、どのような多重課題が起こるのか、具体例を2つご紹介します。

看護現場の多重課題の具体例①

【登場人物】
Aさん:認知症既往のある術後患者。安静度はベッド上まで。
Bさん:術後の経過良好で来週退院予定。安静度は見守り歩行。
Cさん:自力歩行可能。20ml/hで点滴(補液)を持続投与中。

 

【場面】
あなたは大部屋でAさんの清潔ケアをしています。(カーテンを閉めています)
その途中で、同室のBさんに「トイレに行きたいんだけど」と対応を頼まれました。
そんなときに、同室のCさんの点滴ポンプアラームが鳴りました。

 

看護現場ではよく起こる事例です。この場合では、以下の対応が考えられます。

 

【対応例】
Aさんの枕もとのナースコールで応援を要請。Bさんの介助とCさんのアラーム対応を依頼する。

 

5つの視点で考えると、生命維持の視点は問題ないと考えられるため、安全管理の視点から優先順位を決めましょう。
今回の事例では、Aさんの安全確保が優先されます。その後はBさん、Cさんの順に対応するのが一般的ではないでしょうか。

 

ただし、ここでの対応は一例であるため、あくまで参考としてください。

看護現場の多重課題の具体例②

【登場人物】
Aさん:寝たきりで点滴を持続投与中。
Bさん:呼吸状態が不安定でモニター、酸素マスクを装着中。
Cさん:経過は良好。移動は車いす。検査予定。

 

【場面】
あなたはAさんの輸液ポンプのアラーム対応中です。
そのときBさんのモニターのアラームがなり、Spo2が90%をきっています。
あと数分後にはCさんの検査出しがせまっています。

 

患者さんの状態の変化も看護現場では起こりやすい事例のひとつです。この場合、対応の一例として以下があげられます。

 

【対応】
Bさんに対応。
Aさん、Cさんの対応は困難であるため、応援を要請する。

 

ここでも5つの視点から考えましょう。
Bさんの状態は、Spo2が低下し状態が悪化している可能性があるため、生命を守るという視点から優先して対応しなければなりません。

 

ただし、AさんCさんにも対応する必要があります。
Bさんから離れることができないため、応援を要請して対応をお願いしましょう。
ここでの対応は一例であるため、あくまで参考としてください。

 

多重課題を解決する方法として、ケアコムの「生体情報モニタ連動アラートシステム」の導入を検討してはいかがでしょうか。
本製品を導入すると、夜間などスタッフの少ない時間帯でも、ステーションから離れてもスマートフォン・PHSでアラートをキャッチできます。
患者さんの安全の確保に役立ち、看護師の業務の負担も軽くできるでしょう。

 

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3.看護師の多重課題研修でおさえるべきポイントとは


多重課題にうまく対応するためには、研修を実施することが有効とされています。
研修を実用的なものにするためには、メリルが提唱した「IDの第一原理」に沿った研修が推奨されています。
そこで今回は、IDの第一原理にそって研修を組むポイントをまとめました。

実際に起こった/起こりうる事例に取り組む

実際の研修では、現実に起こりそうな事例に取り組むことが大切です。
現場でどのように活用できるのかイメージをつけるためです。
事例は、以下の項目をもとに設定しましょう。

 

● 受け持ち看護師の情報(何科や受け持ち人数など)
● 登場人物(年齢、既往歴、意識レベル、安静度など)
● 患者さんの経過
● 場面設定は病棟の特性を考えた内容

 

ここでのポイントは、事例を出すのみで5つの視点や新しい情報を受講者に伝えないことです。

 

経験やもっている知識を総動員させる

事例を発表したら、新しい知識や情報を与える前に、受講者に優先順位を考えてもらいます。
新しい知識を提供しない理由は、「今ある知識だけでは足りない」「新しい知識がなければ多重課題に対応できない」と、受講者に知識や経験が不足していることに気づいてもらうためです。

 

この思いが学びたいという主体的な学習意欲を高めます。

不明点や疑問点まで具体的に回答する

ここで初めて5つの視点や注目するべき点などの新たな知識を提供します。

 

通常の研修では「生命の視点を第一優先に考えましょう」「患者さんへの配慮も忘れずに」と説明しただけで終えることもあるでしょう。
ただし、多重課題研修では「どの優先順位で対応すべきか」を具体的に伝えてください。
指導者が経験した事例をもとに紹介すると効果的です。具体例を細かく示すことで、受講者は実際の現場で活かせます。

あらゆる場面のシミュレーションを実施する

疑問点や不明点を解消できたら、その次にシミュレーションをおこないます。
院内研修でシミュレーションをおこなう場合、受講者の病棟が異なるため、あらゆる状況や場面を想定して研修の内容を構成しましょう。

 

シミュレーションが終了したら、デブリーフィング(受講者による振り返り)をおこないます。
ここで、指導者は意見や指導をしてはいけません。指導者が先に解決策や知識を伝えると学びを得られないためです。

 

「どのように優先順位をつけたらよかったのか」「なぜ間違ったのか、正しくはどうすればよかったのか」と学べる機会としましょう。

振り返りをおこなう

学びの成果をまとめるために、指導者と受講者で研修全体をふりかえりましょう。

 

メリルの「IDの第一原理」では、学びを研修の場だけで完結させないことを重要視しています。
そのため、振り返りでは現場にどのように臨んでいくか、受講者にアクションプランを考えてもらうことが欠かせません。

 

指導者は受講者の成長をサポートできるように見守り、迷ったときにアドバイスすることが大切です。

4.多重課題が処理できない/苦手な人への対応は?

多重課題を解決する能力は、看護師に求められるスキルといえます。
ただし、すべての看護師が同じペースでこのスキルを習得できるとは限りません。多重課題の処理が苦手な人には、以下のような特徴があげられます。

 

● 完璧主義である
● 細かい部分が気になる
● スケジュール管理がそもそも苦手である

 

今回は多重課題の処理ができないもしくは、苦手な看護師に対して指導者としてどう対応していくべきか解説します。

対応1:予測できる多重課題を提示し、成功体験を増やせるようにする

多重課題の処理が苦手な看護師には、多重課題をクリアして成功体験を増やせるように関わりましょう。
というのも、多重課題への対応が苦手な看護師は、そもそもスケジュール管理が苦手な傾向にあるためです。予測できない、予測が難しい課題に対応できないのです。

 

多重課題には、以下のように予測できる課題と予測できない課題があります。

 

予測できる課題・業務 予測できない課題・業務
・予定の検査や手術出し
・リハビリテーション
・点滴投与
・内服時間
・あらかじめ計画した清潔ケア
・検温
・患者の急変
・ナースコール対応
・医師の処置の介助(あらかじめ決まっている場合を除く)
・同室患者からの依頼
・検査や点滴時間の早まり

 

まずは、予測できる課題や業務に取り組んでもらうことで、自分が作業するのにどれほど時間がかかるのかを学べます。

 

そうすると、スケジュール管理ができるようになり、多重課題への対応が苦手な看護師の自信にもつながるでしょう。

対応2:困ったときの「報告・連絡・相談」を徹底する

患者さんの生命や安全が確保できない場合はもちろん、対応に困ったり悩んだりしたときも「報告・連絡・相談」を徹底するようにしましょう。

 

多重課題を解決できない看護師は、ひとりで解決しようとする傾向にあります。
そのため、スケジュールに余裕がなくトラブルや事故が起きやすいです。

 

指導者はどのような内容でも必ず耳を傾けるようにすると、看護師も安心して声をかけやすくなるでしょう。

対応3:指導者側が多重課題を少なくする工夫をする

あらかじめ多重課題を少なくしておくことも、多重課題に苦手意識をもつ看護師への対応のひとつです。

 

そもそも多重課題を苦手とする看護師は、やるべき課題が多い患者さんを担当するとわかった時点で不安を感じています。その不安は、ミスを起こしやすくし、さらに苦手意識が強くなりかねません。

 

多重課題を減らす工夫として、以下の方法があげられます。

 

● 少ない受け持ち人数で業務をこなしてもらう
● 急変リスクが低い患者さんを担当してもらう
● スケジュールがない患者さんを担当し、複数人を受け持つことに慣れてもらう

 

少しずつ重症度の高い患者さんや予測できる業務の多い患者さんを担当してもらうことで、成長をサポートしましょう。

 

成功体験が増えることで自信につながり、看護師が多重課題に前向きに取り組めるきっかけになります。

対応4:できたことは必ず認め、失敗は具体的に振り返る

指導者はできたことに目をむけて、1日を振り返りましょう。
多重課題が苦手な看護師は、指導者からの指摘がさらに苦手意識を強くさせてしまうことがあります。

 

とはいえ、失敗をそのままにしておくことはできません。
まずは看護師の思いを聞きましょう。思わぬところに指導すべきポイントが見つかる可能性があるためです。

 

さらに、できたことは認め、指導がマイナスなもので終わらせないようにすることも、指導者の役目です。

5.看護師の多重課題は振り返りが最大の学びの場である

看護現場では、ひとりで何人かの患者さんを担当するため、多重課題への対応力が求められます。

 

多重課題の優先順位を考える力を育てるためには、現場における指導にくわえて多重課題の研修が重要です。
指導や研修をするときは、5つの視点を活用し「どこがポイントだったのか」「どうすればよかったのか」を具体的に指導してください。

 

ただし、間違った点を注意するばかりではなく、1つでもできたことを次回に活かせるようにサポートすることを心がけましょう。

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