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お役立ち 2025.03.13

ヒヤリハットが介護現場で起こる3つの理由|多い事例や対策を解説

「ヒヤリハットってどんな場面が一番多いの?」
「ヒヤリハットと介護事故って違う?」
 
ヒヤリハットとは、危ないことは起こったものの、介護事故が起こる一歩手前で踏みとどまった事象のことです。とはいえ、介護事故との線引きが難しくどちらで報告すべきか困る方もいらっしゃるでしょう。
 
この記事では、介護現場におけるヒヤリハットと介護事故との違い、ヒヤリハットが起こる理由、活用方法などについて解説します。
 
ヒヤリハットを減らす方法についても触れていますので、介護施設での事故を防ぎたい方はぜひ最後までご覧ください。

▼目次

1.介護現場におけるヒヤリハットとは

ヒヤリハットとは事故やケガにつながる可能性のある場面や事象を指します。
「ヒヤッと」したり「ハッと」したりすることから、ヒヤリハットと名づけられました。
 
介護事故が起こる前兆といわれており、これには「ハインリッヒの法則」が関係しています。
 
ここでは、ヒヤリハットとハインリッヒの法則の関係性や介護事故との違いについて解説します。
 
▼参考:厚生労働省「ヒヤリハット活動でリスクアセスメント」
 

ハインリッヒの法則とヒヤリハットの関係

ハインリッヒの法則は「1:29:300の法則」ともよばれ、以下のように提唱された法則です。
 

【ハインリッヒの法則】
同じ人物が引き起こした330件の災害のうち、1件は重大な事故(死亡や手足の切断などの大きな事故に限らない)であり、軽傷(応急手当で対応できるもの)が29回、傷害のない事故(物損や傷害のリスクがあるもの:ヒヤリハット)が300回発生している

▼参考:厚生労働省「職場のあんぜんサイト:ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)[安全衛生キーワード]」
 
つまり、300件のヒヤリハットが積み重なると1件の重大な事故が起こることになります。ヒヤリハット事例の積極的な分析・対策ができれば、重大な事故を防げる可能性が高まります。
 

ヒヤリハットと介護事故の定義の違い

起きた事象がヒヤリハットか介護事故かは、実際に発生したかで判断します。
たとえば、以下のような事例があります。
 

場面 ヒヤリハット 事故
転倒・転落 ご利用者が転倒しそうになったものの、職員がとっさに支えそのまま座り込むだけで済んだ ご利用者が実際に転倒した(ケガの有無や程度に限らない)
誤投薬 薬を飲ませようとした直前でほかのご利用者の薬であることに気づいた 別のご利用者の薬を飲ませてしまった(同じ薬であっても他者のものを飲ませたら事故)

 
線引きが難しいため、どちらで報告すべきか迷う場面もあるでしょう。
 
そのようなときは、ヒヤリハットを事故として報告することには問題ありません。
反対に、介護事故に該当するものをヒヤリハットとして記録してしまうと、行政への報告義務を果たしていないことになります。
どちらで報告するか迷ったら「介護事故」として処理した方がよいでしょう。
 
▼参考:和歌山県「介護事故の報告」

2.ヒヤリハットが起こる3つの理由

ヒヤリハットが起こるおもな要因は、人的なものと環境によるものがあります。
 
● ご利用者の要因
● 介護スタッフの要因
● 介護現場そのものの要因
 
一つずつ見ていきましょう。
 

1.ご利用者の要因

認知症や足の不自由さなど、ご利用者の身体的・認知的な状態が原因で事故のリスクは高まります。
とくに認知症の方の場合、身体機能の低下だけでなく平衡感覚の異常が影響して、事故に至るケースが多く見られます。
 
事故を防ぐためには、ご利用者の歩行状態や特性をしっかりと理解し、必要に応じた対応をとることが重要です。
 
▼参考:
日本転倒予防学会誌 Vol.1 征矢野あや子「認知症のある高齢者の転倒予防」
 

2.介護スタッフの要因

介護スタッフが働いている環境や背景が、ヒヤリハットを引き起こす要因になることもあります。
 
介護業界は慢性的な人手不足であるため、日々の業務に追われて休みが取れなかったり、残業による長時間労働が続いたりすることもあるでしょう。
実際に「人手が足りない」と答えた介護スタッフが49.9%いるとした調査もあります。
このような状況が続けば、介護スタッフの負担が大きくなり、集中力の低下による事故につながりかねません。
 
事故を防ぐためには、介護スタッフ一人ひとりの意識向上だけでなく、リスク評価や安全教育の徹底など、組織全体での対策が不可欠です。
 
▼参考:
公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について」
 

3.介護現場の要因

介護施設の環境や福祉用具などが、ヒヤリハットの原因になる場合も少なくありません。
具体的な事例は、以下のとおりです。
 

ヒヤリハットの場面 事故が起きやすい環境
転倒のリスク ・センサーマットのコード
・施設の玄関や出入り口にあるマットや小さな段差
移乗時の事故 ・不適切な介護ベッドの高さで車椅子への移乗時に転落
・ベッド柵の不備により、寝ている間に転落
福祉用具のトラブル ・車椅子のフットペダルが適切に固定されておらず、足を挟んで負傷
・手すりの設置位置が不適切で、からだを支えようとした際に転倒

 
不適切な環境による事故を防ぐためには、介護スタッフが危険な場所を事前に把握し、入居者とともに注意を払うことが重要です。必要に応じて、施設の設備や福祉用具の改善を検討することも、安全対策として欠かせません。

3.介護現場で多いヒヤリハット事例

介護現場で多いヒヤリハットは、以下のとおりです。
 
● 転倒・転落しそうになった
● 誤嚥・誤飲しそうになった
● 薬の誤投与をしそうになった
 
詳しく解説します。
 

転倒・転落しそうになった

介護現場でもっとも多いヒヤリハットの一つが、ご利用者が転倒・転落しそうになるケースです。
ある自治体では、ヒヤリハットとして報告された38.8%が転倒・転落でした。
 
転倒・転落が起きやすい場面として、以下があげられます。
 
● ベッドから起き上がろうとしたときにバランスを崩した
● 車椅子から立ち上がろうとしたらブレーキがかかっていなかった
● 段差に気づかずにつまずきそうになった
 
介護施設に入所されている方は高齢者が中心であるうえに、病気によって視力や筋力、認知機能などが低下していることも珍しくありません。
 
こうしたご利用者の身体的な問題に、段差や家具の配置などの環境要因が加わることで、転倒・転落のリスクが高まります。
 
▼参考:
青森県南部町「令和3年度 介護事故・ヒヤリハットの発生状況調査の集計・分析結果」
 

誤嚥しそうになった

食事中や服薬時に誤嚥・誤飲しそうになる事例も多くあります。
おもな原因は以下のとおりです。
 
● 嚥下機能の低下
● 食事中の姿勢不良
● ご利用者に合わない食事形態
 
とくに高齢者は嚥下機能が低下しているため、固形物や液体が肺に入りやすくなります。
これにより窒息や誤嚥性肺炎などの重大な健康被害につながるおそれがあります。
 
誤嚥を防ぐためには、ご利用者に合わせた食事形態の工夫や適切な姿勢保持がカギとなるでしょう。
 
▼参考:
WAM NET「第10回:食事姿勢」
 

薬の誤投与をしそうになった

薬の管理ミスも、介護現場で多いヒヤリハットです。
たとえば、ほかのご利用者の薬を間違えて渡してしまいそうになったり、服用時間を間違えたりするケースがあります。
 
たとえ介護スタッフが間違えなくても、ご利用者が誤って隣のご利用者の薬を飲みそうになる場面もあります。
 
これらは重大な健康被害につながる可能性があるため、とくに注意が必要です。

4.【ヒヤリハット報告書】介護現場での書き方のコツ

ヒヤリハットの報告は、決められた様式がなく行政への報告も義務付けられていません。
ただし、正しい報告内容を残しておくと、のちの分析に役立ち、起こりうる重大な事故を防げます。
 
ヒヤリハットの報告書の書き方のコツは、以下のとおりです。
 

書き方のコツ 詳細・例
5W1Hを基本に短い文で記載する ・When(いつ):日時や時間帯
・Where(どこで):発生場所
・Who(誰が):当事者や発見者
・What(何が):起きた事象や行動
・Why(なぜ):原因や背景
・How(どのように):対応策や再発防止策
客観的事実を明確に記述する ・観察した事実を詳しく記述
例:「Aさんがベッドから立ち上がる際にバランスをくずし、ベッドの縁につかまって体勢を立て直した」
再発防止策を具体的に提示する ・原因分析だけでなく、具体的な改善策も記載
例:「手すり設置」「食札確認の徹底」など

 
ヒヤリハットの報告書は、ご家族への報告の際に使用する場合があります。そのため、専門用語を使用せず、介護の知識がないご家族が見てもわかるような用語で書きましょう。

5.ヒヤリハット件数を介護現場で減らす方法

ヒヤリハットは報告だけで終わらせず、現場に反映してヒヤリハットや事故を予防することが大切です。
 
● 職場全体で情報共有する
● ヒヤリハットデータを分析する
● 原因究明や再発防止策を検討する
 
ヒヤリハットが起こるたびにこの3つをおこなえば、重大な事故につながるリスクを下げられるでしょう。
 

職場全体で情報共有する

ヒヤリハット報告書をスタッフ全員に共有し、状況や対策を把握しやすい環境をつくりましょう。発生した事故の詳細や有効な対策を共有することで、再発防止に役立てるためです。
 
情報共有の仕組みが整えば、職員の意識向上や事故防止につながります。
組織全体で効果的な対策を考え、安全性を高めるためにもヒヤリハット報告書の活用が大切です。
 

ヒヤリハットデータを分析する

ヒヤリハットがなぜ起きたのか、分析することがより綿密な対策につながります。以下の方法で分析すると効果的です。
 
● 見守りシステムで映像を記録する
● 発生場所ごとにヒヤリハットデータを整理する
 
なかでも見守りシステムは映像が残るため、第三者の目線から分析できます。
 
注意点は、当事者を責めずに冷静に分析することです。
当事者が責められている場面をほかのスタッフが見てしまうと「責められたくない」という思いから、未報告が増えるおそれも否定できません。
 
当事者の問題だけでなく、ご利用者や環境の要因も含めて分析しましょう。
 

原因究明や再発防止策を検討する

厚生労働省の調査によると、ヒヤリハットを含む介護事故件数が減った要因として「原因究明や再発防止策の検討」であると多くの施設が回答しています。
 
適切な再発防止策を立てるには、正しい状況の把握やデータ分析が必要です。
これまでの報告書と合わせて映像による分析をおこなえれば、原因が明確になり具体的な対策を検討できるでしょう。
 
▼参考:
厚生労働省「介護保険施設のリスクマネジメントに関する調査研究事業_報告書」

6.ヒヤリハットを減らし介護現場の安全対策を強化しましょう

介護現場の安全対策を強化するためには、ヒヤリハットの事例の共有と適切な対策が不可欠です。ハインリッヒの法則にもとづくと、ヒヤリハットの蓄積が重大事故につながる可能性があるため、日々の観察と記録が重要になります。
 
介護施設で起こりやすい転倒や誤嚥、誤投薬などのリスクを軽減するには、環境の見直しや正しい分析と対策が求められます。
ヒヤリハット報告の活用で未然に事故を防ぐ体制を整え、安全な介護環境を実現しましょう。
 
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