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特集インタビューお役立ち 2022.12.01

認知症患者がナースコールを押せない理由と工夫を聞きました

介護士さんとご利用者をつなぐナースコール。しかし認知症を患っているご利用者などは、認知機能・身体機能の低下によってナースコールを押さない・押せないことも。その結果、対応が遅くなり、気づいたときには転倒・転落してしまっていたということもあるでしょう。

高齢者の転倒・転落は大きなケガにつながるリスクが高い為、各施設でナースコールを押してもらう工夫・押せるようにする工夫が必要不可欠です。

 

介護士が車椅子に座る高齢者の手を握っている

 

 

では、頻繫に「ナースコールを押してくださいね」と伝えてもなかなか覚えることができない認知症のご利用者には、どんな対策が効果的なのでしょうか。

都内の特別養護老人ホームで施設長を務め、現在は社会福祉法人 福音会の常務理事として活躍する笹川美由紀さんに、認知症のご利用者がナースコール呼出をできない理由と、その理由別の対応策をお聞きしました。

 

「どうしたらナースコールを押してもらえるんだろう」と悩む介護士さん・看護師さんは、ご紹介する内容を参考に対応の仕方を考えてみてくださいね!

 

ちなみに、逆に頻繁にナースコールを押してしまう方への対策記事はこちらで紹介しています。

介護施設のナースコール頻回対策3選【実践レベル別に紹介!】

▼目次

1.認知症でナースコールを押せない理由とは?

一口に「認知症でナースコールを押せない」と言っても、原因は人によって異なります。その為、それぞれの方の押せない理由を理解しないと、効果的な策を講じることはできません。

ここではナースコールを押せない主な理由を、メンタル的な要因と身体的な要因に分けてご紹介します。

 

メンタル的な理由

 

人とコミュニケーションを取りたくない

認知症の症状の一つが、同じ話を何度も繰り返してしまうなどの記憶障害。周囲の人に「さっきも聞いたよ」と指摘される経験が、徐々に「恥ずかしい思いをしたくない……」という羞恥心に変化することもあるのだそう。その結果、積極的に人とコミュニケーションを取ることをためらってしまうと考えられます。

 

「申し訳ない」と感じてしまう

介護施設や病院でケアを受けるご利用者・患者さんの中には「忙しい中、ケアに来てもらうのが申し訳ない」と感じる方も多いのだとか。数分前のことを忘れてしまう不安や、身の回りのことができなくなっていく苦しみを抱く認知症の方は、より一層の申し訳なさを感じてしまうかもしれません。

 

居室から窓の外を見ている認知症患者

 

 

身体的な理由

 

ナースコールがどこにあるのか、どれなのか分からない

物体が何なのかを認識できないということも、よくある認知症の中核症状に挙げられます。千葉県の発表によると、船橋市にある特別養護老人ホームで「ベッドリモコンとナースコールを間違えて操作した」というヒヤリハット報告があったのだとか。ナースコールと他のものが判別できないことも、押せない理由の一つとして考えられます。

 

押すべきタイミングや押し方を覚えられない

認知症の方は記憶障害を引き起こすことも多く、「困った時に押してくださいね」「ここを押してくださいね」と説明を受けても、数分・数時間経ったら忘れてしまう可能性があります。その為、ナースコールを押すべきタイミングや押し方を覚えていられず、押せないという状況につながっているのかもしれません。

 

押す力がない

レビー小体型認知症の場合、体が固くなり動きづらくなるなどのパーキンソン症状が現れることがあります。その為、握り押ボタンやハンド形子機を握る・押すといった動きがしづらくなり、ナースコールが押せなくなると考えられます。

2.対応策を練る前に「ケアの必要度」を把握しよう

ナースコールを押せないご利用者の対応策を考える上で大事なのが、ご利用者ごとに異なる“ケアの必要度”を把握するということ。

たとえ認知症の方がナースコールを押してくれなくても、特に問題が起こっていないなら心配ありません。ナースコールは必要な時に使うものであって、むやみやたらに使うべきではないのです。

 

ケアの必要度を知る為には、ご利用者の“一日の暮らしの帯”を把握しなければなりません。一日の暮らしの帯とは、朝起きてから寝るまでの様々な行動をパターン化して捉えることです。「起きたらカーテンを開ける」「連続テレビ小説を見る」「トイレに行く」など、点のように散りばめられたご利用者の日々の行動を一つひとつ拾い集めることで、帯になっていきます。

 

一日の暮らしの帯を把握できたら、あとは「この時間はトイレに行くから、注意が必要だな」などと生活の中でケアを重点的に行うべき箇所を探すだけ。

本当にケアが必要なタイミングでも自らナースコールを押してくれない・押さないご利用者がいる場合には、それぞれの理由に応じた策を講じていきましょう!

朝起きてストレッチをしている高齢者

3.メンタル的な理由で押せないご利用者への工夫

まずはメンタル的な理由で押せないご利用者への対応策をご紹介します。

 

人とコミュニケーションを取りたくないご利用者には…

話しやすい環境づくりや質問の仕方を心がけましょう

 

うまく会話ができないことがコミュニケーションを拒む原因の一つと考えられるため、会話をする際には認知症の方が話しやすくなるようサポートしましょう。例えば、認知症には、あちこちに注意を向けることが難しいという傾向がある為、正面からゆっくりと1対1で話をすることが大切です。

また、話の内容は理解できているものの反応が遅くなることがある為、発語があるまで焦らずじっくり待つようにしましょう。

 

 

「申し訳ない」と感じてしまうご利用者には…

関心を持っていることを言葉や表情で伝えましょう

 

認知症の方は人の感情を汲み取ることに優れており、介護士さんの「めんどくさい」という気持ちも、「大切に思っている」という気持ちも伝わります。そして「介護士さん、めんどくさそうだな」と感じたら萎縮したり、「自分に関心があるんだな」と感じたら明るくなったり、ご利用者自身の感情にもダイレクトに影響します。

だからこそ、近くに行ったら話しかけるなど、相手に関心があることをきちんと伝えることで「申し訳ない」と委縮する気持ちは薄まるはずです。

微笑んでいる介護士

4.身体的な理由で押せないご利用者への工夫

次に身体的な理由で押せないご利用者への対応策をご紹介します。

 

ナースコールがどこにあるのか、どれなのか分からないご利用者には…

使い慣れたものを使うようにしましょう

 

認知機能が低下した方でも、常に使っているものは記憶に残りやすいとされています。その為、ナースコールを使用しなくても介護士を呼んだり、意思を伝えることができたりするような段階から、ご利用者の近くに握り押ボタンやハンド形子機を置くようにしておき、「これは介護士さんを呼出すものなんだ」ということを潜在的に覚えてもらうのが効果的です。

もしくは、普段からスマートフォンでよく通話をされているご利用者なら、既に「スマートフォン=誰かを呼出すもの」と覚えている可能性も。その場合は、スマートフォンを呼出用として使うことを検討してみても良いかもしれません。

 

 

押すべきタイミングや押し方が分からないご利用者には…

見やすい位置にタイミングや使い方を書いてあげましょう

 

ご利用者が介護士さんからの説明を忘れてしまった時に備え、見るだけでナースコールを使うタイミングや使い方が分かるようにベッドサイドの壁に張り紙を貼ったり、ハンド形子機の裏面に明記したりしましょう。壁に貼る場合は、説明書きの近くに握り押ボタンやハンド形子機を固定することで、よりご利用者の目に入りやすくなるかもしれません。

 

ナースコールの押し方が書かれた貼り紙
ナースコールの押し方が書かれた貼り紙の一例

 

▼ケアコムでは、握り押ボタンをベッド柵に固定できるナースコールホルダーもご購入いただけます。

 

 

押す力がないご利用者には…

力が弱くても呼出できるナースコール子機を使ってみましょう

 

ナースコール子機の種類は多種多様。押す以外にも、握る、触る、引っ張る、など様々な呼出方法があります。ご利用者の身体の状態に合わせて、呼出しやすいものを使ってみてはいかがでしょうか。

 

取り付けるだけで、握って呼出せるようになる子機アタッチメント(グリップ形)と軽いタッチで呼出せるようになる子機アタッチメント(プッシュ形)、声や息など4種類の呼出方法ができるマルチケアコールなど、ケアコムでは様々なタイプのナースコール子機をご用意しています。

 

ボタンを押す以外の呼出方法ができるナースコール子機

 

 

どうしてもナースコールを押せない・押さないご利用者には…

自動で呼出せるセンサーを併用しましょう

 

自力で呼出すことが難しい場合には、自動で呼出せるセンサーを併用するのも一つの策。ご利用者がベッドから起き上がった時、端座位の体勢をとった時、ベッドから降りようとした時など、システムによって呼出すタイミングは様々です。ベッドだけではなく、トイレで使えるセンサーもあり、迅速なナースコール対応につながります。必要に応じて導入を検討してみてはいかがでしょうか。

センサーの一例

※眠りSCANはパラマウンドベッド株式会社の登録商標です。

※トイレ離座センサーのウォシュレット・前方ボード(スイングタイプ)・前方ボード(はね上げタイプ)はTOTO株式会社製です。

※ウォシュレットはTOTO株式会社の登録商標です。

 

▼他にも多種多様な見守りシステムが介護士さんのケアをサポートします!

5.まとめ

認知症の方は新しいことに対してとても敏感です。その為、介護士さんによって異なる手順や動きでケアをしてしまうと、ご利用者はドキドキと緊張した状態が続き、なかなか心安らぐことができません。ナースコールを押してもらう為の策を講じる時には、必ずスタッフ間で連携をとり、統一したケアを心掛けていきましょう!

 

<参考文献>

株式会社ケアコム 抜去あるある事例集

厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト

池田学 認知症者のコミュニケーション

千葉県 身体拘束の廃止に向けて

公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット

 

<監修>

社会福祉法人 福音会

常務理事 経営戦略室室長 統括施設長

保健師

社会福祉士

認知症ケア専門士

笹川 美由紀氏

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