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ナースコールの法律・設置基準・違反をメーカーが解説します
病院や介護施設で働く皆さん、そして設計や施工などで施設の開業に携わる皆さん。施設で使用する機器には、いくつもの法的な決まりがあることをご存じでしょうか?
決まりごとの中には、ケアに欠かせない“ナースコール”に関する法律もあり、きちんと理解し遵守する必要があります。たとえ故意でなくとも、その内容を破ってしまうと虐待とみなされることも。「知らなかった」「きちんと理解できていなかった」では済まされません。
ケアをする人、される人、そしてそのご家族も安心して過ごせるように、今一度ナースコールに関する法律を見直していきましょう。
▼目次
1.病院と介護施設の設置基準に違いはあるの?
医療・福祉を問わず、多くの施設で活用されているナースコール。しかしナースコールの設置基準については病院と介護施設で少しだけ違いがあります。
まず、医療の提供体制に関しては「医療法」で定められていますが、特にナースコールの設置についての記載はありません。病院はナースコールの設置が義務付けられているわけではないのです。
しかし身体の不自由な方への合理的配慮や看護師さんの対応をスムーズにするという観点で、ナースコールを設置するのが望ましいと言えます。
一方、福祉の提供体制は、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」や「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」など、施設ごとに設備や運営体制についての基準が定められています。一部福祉や介護施設の基準の中にはナースコールについての記載もあり、該当する施設は法律上必ず設置しなくてはなりません。
2.ナースコールに関する法律を確認しよう
一部施設を除き、ナースコールの設置が義務付けられている介護施設。介護施設に関わる皆さんは、その内容についてきちんと理解できていますか?
難しい法律の内容を自力で理解するのはなかなか大変なので、ここでは施設別にナースコールの設置基準を分かりやすくご紹介していきます。
特別養護老人ホーム
居室…ブザー又はこれに代わる設備を設けること。
便所…ブザー又はこれに代わる設備を設けるとともに、介護を必要とする者が使用するのに適したものとすること。
※ユニット型地域密着型特別養護老人ホーム、地域密着型特別養護老人ホーム、ユニット型地域密着型特別養護老人ホームも同様
特別養護老人ホームの設置基準を読み、「おや?」と思った方がいるのではないでしょうか。
実は次にご紹介する施設を含め、基準を示す文書には「ナースコール」ではなく「ブザー」と記載されていることがほとんど。法律上はご利用者が呼出していることが分かるツールであれば、呼出用ベルでもスマートフォンでも問題ないのです。
つまり特別養護老人ホームに関しては、居室とトイレにナースコールを含む何かしらの呼出用のツールを設置すれば良いということです。
ただし、ご利用者の情報をより詳しく把握するにはナースコールが欠かせません。現在は呼出用ベルなどを活用しているものの、より安全・安心な介護サービスの提供を実現したいという場合には、ナースコールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
指定介護老人福祉施設
居室…ブザー又はこれに代わる設備を設けること。
便所…ブザー又はこれに代わる設備を設けるとともに、要介護者が使用するのに適したものとすること。
※ユニット型指定介護老人福祉施設も同様
指定介護老人福祉施設についても、必ず居室とトイレにブザーを設置する必要があります。ご利用者や介護士さんの使い勝手を踏まえ、導入している呼出用のツールが最適かどうか改めて検討してみてください。
介護老人保健施設
療養室…ナース・コールを設けること。
便所…ブザー又はこれに代わる設備を設けるとともに、身体の不自由な者が使用するのに適したものとすること。
※ユニット型介護老人保健施設も同様
介護老人保健施設の設置基準のみ、明確に「ナース・コール」と記載されています。この点を踏まえると、介護老人保健施設の療養室には、呼出用ベルやスマートフォンではなくナースコールを設置するのが望ましいのかもしれません。
軽費老人ホーム
居室…緊急の連絡のためのブザー又はこれに代わる設備を設けること。
軽費老人ホームは、居室にのみナースコールなどのブザーの設置が義務付けられています。トイレや共有スペースなど、その他の場所に関しては、ご利用者の身体状況などを踏まえて設置すべきかどうかを検討しましょう。
有料老人ホーム
緊急通報装置を設置する等により、入居者の急病等緊急時の対応を図ること。
要介護者等が使用する便所は、居室内又は居室のある階ごとに居室に近接して設置することとし、緊急通報装置等を備えるとともに、身体の不自由な者が使用するのに適したものとすること。
引用:有料老人ホームの設置運営標準指導指針について(平成14年7月18日付け老発第0718003号、最終改正・令和3年4月1日付け老発0401第14号)5(3)(9)
ほとんどの施設の基準は「ブザー」と記載されている中、有料老人ホームは「緊急通報装置」と示されています。言い方は異なるものの、ナースコールなどの介護士さんを呼出せるツールが必要であることには変わりません。
現状、この他の施設に関しては法的なナースコールの設置義務はありません。病院と同じように、ご利用者の安全・安心や介護士さんの働きやすさを踏まえて設置を検討するようにしましょう。
3.設置基準を守らないとどうなるの?
該当する介護施設は必ず守らなくてはならない設置基準。基準に反してブザー(ナースコールなど)を設置しなかった場合、「高齢者虐待防止法」違反となり、虐待とみなされてしまいます。
そもそも高齢者虐待防止法では、次の5つの行為を虐待としています。
ⅰ 身体的虐待:高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ⅱ 介護・世話の放棄・放任:高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
ⅲ 心理的虐待:高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える 言動を行うこと。
ⅳ 性的虐待 :高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
ⅴ 経済的虐待:高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
さらに「ⅱ 介護・世話の放棄・放任」の詳しい内容として、次の5つが挙げられています。
① 必要とされる介護や世話を怠り、高齢者の生活環境・身体や精神状態を悪化させる行為
② 高齢者の状態に応じた治療や介護を怠ったり、医学的診断を無視した行為
③ 必要な用具の使用を限定し、高齢者の要望や行動を制限させる行為
④ 高齢者の権利を無視した行為又はその行為の放置
⑤ その他職務上の義務を著しく怠ること引用:市町村・都道府県における 高齢者虐待への対応と養護者支援について(平成30年3月改訂)1.2「高齢者虐待」の捉え方
このうち②の具体例に「ナースコール等を使用させない、手の届かないところに置く。」という行為が挙げられている為、ナースコールを設置しないことは虐待にあたる可能性があるといえます。
また、「手の届かないところに置く」とあるように、たとえナースコールを設置したとしてもご利用者が使いづらい場所に置かれていたら虐待と判断されるかもしれません。
例えば、NPO法人 地域ケア政策ネットワークが2017年に発表した不適切なケアに関する報告書には、「ベッドから落ちたがナースコールの設備が無く、巡回も無かったため、朝まで床に転がっていた。」という事例がありました。調査を行った同団体は、この事例について「身体拘束・虐待とされてもいい事例」と判断しています。
また、京都府の特別養護老人ホームでは、忙しさを理由にご利用者の手の届かない位置にナースコール置いてしまったという事例も。後に同ホームの運営元が、ナースコールの位置を変えたスタッフについて「虐待行為をしていた」と発表しました。
ナースコールを設置しているからと安心せず、すべてのご利用者が使いやすいように設置できているか、今一度確認しましょう!
4.病院・介護施設ともに要注意 ハンディナースコールに関する法律とは?
病院や介護施設の設備に関係する法律は、まだまだたくさんあります。中でも特に注意しておきたいのが、ハンディナースコールに関する法律です。
実は電波法の改正によって、病院や介護施設などで使われている一部の構内PHSが今後使用できなくなります。
一体どんなPHSが使えなくなるのかというと、「旧スプリアス規格のPHS」です。そもそもスプリアスとは、無線機器から発射される電波のうち不要な電波を指します。どの周波数は必要範囲内で、どの周波数からは不要かというのを定めたのがスプリアス規格で、情報通信の発展などにより規格の内容が更新されました。
それに伴い、新スプリアス規格をクリアしていないPHSは使用できなくなるのです。現時点では旧スプリアス規格のPHSの使用期限は決まっていませんが、いつか使えなくなる時に備え、対策を練っておくと安心ですね。なお、今後さらにスプリアス規格が更新され、新スプリアス規格をクリアしたPHSも使用不可となる可能性もあります。今回のスプリアス規格更新を機に、スマートフォンへ切り替えるのも一つの手かもしれません。
▼ケアコムの病院向けハンディナースコールシステム(スマートフォン・PHS連動)はこちら
▼ケアコムの福祉・介護施設向けハンディナースコールシステム(スマートフォン・PHS連動)はこちら
現在施設で使用しているPHSの規格を調べたいという方は、総務省の電波利用ホームページにある「技術基準適合証明等を受けた機器の検索」で確認してみてください!
5.まとめ
今回はナースコールに関連する法律についてご紹介しましたが、呼出押ボタンの設置位置など、施設で使用する機器には他にも様々な決まりがあります。
また、各機器は設置して終わりではなく点検や更新も行うことで、より安全・安心に使用することができます。ケアの一環として、施設にあるモノを全て正しく使えているかどうか、今一度確認してみてくださいね。
<参考製品>
<参考文献>
内閣府 障害者差別解消法 【合理的配慮の提供等事例集】
厚生労働省 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準
厚生労働省 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準
厚生労働省 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準
厚生労働省 軽費老人ホームの設備及び運営に関する基準
厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
厚生労働省 市町村・都道府県における 高齢者虐待への対応と養護者支援について
NPO法人 地域ケア政策ネットワーク 身体拘束及び高齢者虐待の未然防止に向けた 介護相談員の活用に関する調査研究事業 報告書