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お役立ち 2025.04.16

転倒のヒヤリハットが起こる原因3つ|転倒事故になる前にできる対策とは

「また利用者さんが転倒しそうになった……」
ご利用者が転倒しそうになり「ハッ」となった経験がある方も多いのではないでしょうか。
 
転倒事故はご利用者のケガにつながるだけでなく、スタッフの精神的な負担や責任も大きくなります。
しかし、ヒヤリハットの発生にはいくつかの原因が重なっていることもあり、どんなに気をつけていてもヒヤリハットをなくすのは難しいでしょう。
 
ただし、正しい対策をとることでヒヤリハットの件数を減らすことは可能です。
 
この記事では、転倒のヒヤリハットが発生するおもな原因を3つに整理し、それぞれに対する具体的な対策を紹介します。最後までお読みいただければ、転倒を防ぎ、より安全で安心できる介護環境を作るための実践的なヒントが得られるでしょう。

▼目次

1.転倒のヒヤリハットの発生状況

ある自治体の調査では、介護事業所(通所や入所施設などすべて含む)のヒヤリハットについて以下の結果が得られています。
 

項目 結果
ヒヤリハット報告数 「転倒」(23.4%)がもっとも多く「転落」(15.4%)が2番目に多い
年代別報告数 「80-89歳」(44.9%)がもっとも高く、ついで「90-99歳」(41.2%)である
介護度別報告数 「要介護4」(29.8%)がもっとも高く、ついで「要介護3」(27.6%)が続く

▼参考:令和3年度介護事故・ヒヤリハットの発生状況調査の集計・分析結果|青森県南部町
 
ヒヤリハットは自治体への報告が義務付けられていないことから、全国の実態を知るのは困難です。
 
しかし、医療事故(インシデント)のうち、転倒・転落がもっとも多いとされる報告がいくつかあることから、転倒にまつわるヒヤリハットは多いと推測できます。
 
▼参考:「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書|公益財団法人 介護労働安定センター
▼参考:(6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案)|厚生労働省
 
▼関連記事:ヒヤリハットとインシデントの違いは?事故を減らす方法5つも紹介

2.転倒のヒヤリハットが起こる3つの原因

転倒のヒヤリハットが起こる原因は、次の3つが考えられます。
 
● ご利用者の筋力やバランスの低下
● 安全対策ができていない施設の環境
● スタッフの不適切な介助方法や人手不足
 
それぞれの原因を把握できると、ヒヤリハットが起きたときの分析に役立ちます。詳しく見ていきましょう。
 

1.ご利用者の筋力やバランスの低下

加齢や病気により筋力やバランスが低下すると、歩行や立ち上がり動作が不安定になりやすく転倒のリスクが高まります。
 
また、認知症による判断力の低下は危険な行動につながる可能性があり、薬の副作用によるふらつきや眠気も転倒リスクを高める要因となります。
 
そのため、入所時や定期的なタイミングでご利用者一人ひとりの転倒・転落のリスクを評価し、適切な予防策を講じることが大切です。
 

2.安全対策ができていない施設の環境

ご利用者の生活環境の安全対策が不十分であると、転倒のリスクが高まりヒヤリハットが発生しやすくなります。
 
たとえば、以下のような状況があげられます。

● 暗い場所
● 滑りやすい床材
● 段差のある場所
● 手すりがない廊下
● 障害物の多い通路
● ワックスがけをした床
● すべり止めマットがない浴室
 
施設の環境を整備し、安全対策を徹底することで、ご利用者が安心して生活できる空間を提供することが大切です。
 

3.スタッフの不適切な介助方法や人手不足

正しい介助方法を知らずにサポートすると、ご利用者がバランスを崩しやすくなり、転倒につながる恐れがあります。
 
また、声かけが不十分だと動作のタイミングが合わず、スタッフとご利用者の連携が取りづらくなります。
 
さらに、介護スタッフが忙しく見守りが手薄になると、注意が行き届かずヒヤリハットが増える傾向です。
 
▼関連記事:
高齢者で転倒しやすい人の特徴とは?繰り返す原因や転倒予防の対策を解説

3.転倒のヒヤリハットが起きやすい場面

介護施設の中で、転倒しそうになってヒヤッとする場面は多くあります。特に、以下のようなときに転倒のリスクが高まります。
 
● 立ち上がり・歩行時
● 介助中
● 施設の設備利用時
● 食事・ナースコール対応時
 
それぞれの場面でどのような危険があるのか、詳しく見ていきましょう。
 

立ち上がり・歩行時

ご利用者が移動するときは、転倒のリスクが特に高くなる傾向です。たとえば、次の状況があげられます。
 

ヒヤリハットが起きやすい場面 詳しい状況
ベッドから立ち上がるとき ・からだがふらついてバランスを崩しやすい
・足元が滑って転びそうになる
車いすや歩行器を使うとき ・段差やカーペットに車輪が引っかかる
・うまくブレーキをかけられずに転びそうになる
トイレや浴室にいくとき ・床がぬれていて滑りやすい
・急いで移動してしまい転倒することがある

 
ご利用者は思った以上に足元が不安定になりやすいため、立ち上がるときや歩くときは特に注意が必要です。
 

介助中

介護スタッフがご利用者をサポートするときも、転倒のリスクがあります。
 
たとえば、以下のような場面で転倒が起こりやすい傾向です。
 
● 浴室の椅子への移乗中に安定せず転倒・転落しそうになる
● 食堂やレクリエーションの場などでの移動介助中、人が多くバランスを崩しやすい
 
介助中の転倒を防ぐには、ご利用者の動きに合わせて、しっかり支えることが大切です。
 

施設の設備利用時

普段何気なく利用している施設の設備でも、気づきにくいリスクがひそんでいます。
 
床や段差はもちろん、実はスロープの傾斜角度が転倒しやすくさせているかもしれません。
傾斜がゆるやかでも、下肢の筋力が弱い方や杖を使用している方にとっては踏ん張りがきかず、バランスを崩しやすいこともあります。
 
こうした細かい点まで注意を払えると、転倒をはじめとしたヒヤリハットが起きにくい環境が整うでしょう。
 

食事・ナースコール対応時

食事中に急に立ち上がると、ふらつきや意識低下が原因で転倒することも少なくありません。また、誤嚥によって一時的に息が苦しくなり、バランスを崩すことも考えられます。
 
ナースコール対応時には、スタッフが急いで移動することで、ご利用者が焦って立ち上がり、転倒につながるケースもあります。
 
▼関連記事:
介護施設で転倒事故が起こった際の対応について解説

4.転倒のヒヤリハットが起きた実際の例

転倒のヒヤリハットはどのような場面で起きているのか、実際の例を2つ紹介します。
 
より具体的な内容を知り、施設での対策に活用しましょう。
 

椅子からの立ち上がりでバランスを崩し転倒したが大事には至らなかった

介護施設の備品とご利用者の状態があっていないことにくわえ、スタッフの援助も不適切であったことが原因で起きたヒヤリハットです。
 

項目 内容
状況 ・ご利用者が椅子から立ち上がる際にバランスを崩し、床に転倒
・腰を軽く打撲したが、大きなケガには至らなかった
ヒヤリハットの要因 ・椅子やベッドの高さがご利用者に合っておらず、立ち上がる際に安定しなかった
・スタッフの介助が不十分だった
改善策 ・ご利用者の身体状況に合った椅子やベッドの高さを調整し、立ち上がる際は必ず介助する
・ベッドレールや椅子の肘掛けを活用し、安全に移動できる環境を整える

 
公益財団法人介護労働安定センターの資料によると、不適切な高さのソファーからの立ち上がりで転倒につながったケースもあります。
 
とはいえ、介護施設の備品すべてをご利用者一人ひとりに合わせるのは簡単なことではありません。
まずは、ご利用者の身体状況に合う介助方法を見直すことが、ヒヤリハットを防ぐ重要なポイントです。
 
▼参考:
介護事故事例集|公益財団法人 介護労働安定センター
 

装具をつけ忘れて移乗時にふらついた

慌ただしいときにありがちな「装具のつけ忘れ」で起こったヒヤリハット事例を紹介します。
 

項目 内容
状況 ・装具を装着せずに移乗しようとした際、ふらついて不安定になった
ヒヤリハットの要因 ・装具の装着に手間がかかるため、ご利用者自身の判断で装着せずに移乗しようとした
改善策 ・装具の重要性を改めて説明し、装着の習慣を徹底する
・装具なしでの安全な移乗方法を練習し、安定性を向上させる

 
ご利用者の判断で装具を装着しなかった例ではありますが、職員もそのまま受け入れてしまったことがヒヤリハットにつながったと考えられます。
 
このように、装具をつけなかったことを「だれが」認識していたかを明確にすることは、適切な状況判断や対策を考えるうえで重要です。

5.ヒヤリハットが転倒事故になる前にできる対策

ヒヤリハットが転倒事故(インシデント)につながる前にできるおもな対策は、以下のとおりです。
 
● データを蓄積・分析
● 介護スタッフの意識改革
● 施設内の環境改善
● 介助技術向上のための研修
● 見守りカメラの活用
 
一つずつ見ていきましょう。
 

データを蓄積・分析

転倒リスクのパターンを見つけるために、頻発する時間帯や場所を分析し、チェックリストを活用することで事前の点検を徹底し、リスクを低減できます。
 
データを分析する代表的な方法として「ヒヤリハット報告書の活用」があげられます。
 
ヒヤリハット報告書は、5W1Hを使用して、介護の知識がない人が読んでも一読して理解できるような内容で書くことがポイントです。
これを徹底することで、具体的な防止策を立てられ、ヒヤリハット件数の減少につながります。
 
とはいえ、報告書は当事者本人や関係者が書くため、主観的になってしまう可能性はゼロではありません。その対策として、のちに解説する
「見守りカメラの活用」が有効になるでしょう。
 

介護スタッフの意識改革

転倒事故を防ぐためには、介護スタッフ一人ひとりの意識を高めることが大切です。
 
発生したヒヤリハットをチームで共有し、定期的に振り返ることで、危険を未然に防ぐ意識が育ちます。データを活用して連携を強化することも重要です。
 
スタッフ同士が協力し、学び合うことで、安全な介護環境を実現できるでしょう。
 

施設内の環境改善

施設の環境を整えることも、転倒事故を防ぐために必要です。
たとえば、手すりを設置したり、滑りにくい床材に変更したりすることで、安全性が高まります。
 
また、転倒の危険が高い場所を明確にし、注意喚起の表示を工夫することも有効です。
わかりやすく表示することで、ご利用者自身も注意できる環境を整えましょう。
 
▼関連記事:
介護施設における環境整備の取り組み内容や重要性とは?メリット・デメリットも解説
 

介助技術向上のための研修

転倒のヒヤリハットを防ぐためには、スタッフが正しい介助技術を身につけなければなりません。
特に、安全な歩行介助や移乗介助の方法を習得することで、ご利用者の安定した動作を支えられます。
 
万が一転倒しそうになったときの対応も重要です。適切な支え方や、無理に支えずに被害を最小限に抑える方法を学ぶことで、介護者自身のケガを防ぐことにもつながります。
 
研修では、実技を交えたトレーニングを定期的に実施し、日常業務の中で自然に安全な介助ができるようにしましょう。
 

見守りカメラの活用

見守りカメラを設置することで、リアルタイムで転倒リスクのある場所を常に確認でき、事故の予防や素早い対応が可能になります。
 
また、録画映像を活用すれば、実際にどのような状況でヒヤリハットが発生したのかを振り返られるため、危険な動作や環境の問題点を明確にできます。
これにより、より具体的な転倒事故防止策を立てることが可能です。
 
ただし、カメラの運用にはプライバシーへの配慮が不可欠です。ご利用者やご家族に事前に説明し、同意を得たうえで適切な設置や映像管理のルールを決めましょう。
 
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6.ヒヤリハットで転倒予防をするには振り返りと環境整備が重要

転倒のヒヤリハットを事故にさせないためには、起こったヒヤリハットの振り返りが重要です。
 
発生した原因を分析し、チームで情報を共有することで、転倒リスクを減らせます。
ヒヤリハット報告書だけでなく見守りカメラによる記録を活用すれば、より具体的な状況が把握でき、客観的な防止策を立てられるでしょう。
 
また、手すりの設置や床材の改善など、環境整備も転倒予防に効果的です。
 
より安全な介護環境を整えるため、効果的な対策を講じていきましょう。
 
▼関連記事:転倒転落リスクの看護計画|短期・長期目標や個別性を考慮した立案方法を解説
 
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