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お役立ち 2024.06.10

医療現場は医師の働き方改革でどう変わるのか【2024年4月施行】

2024年4月、医師の働き方改革によって医師の時間外労働の上限が決定されました。これまで日本の医療は、医師の長時間労働によって支えられてきた側面もあります。

 

では、日本の医療を支えてきた医師の長時間労働が短くなると、医療業界はどのように変わるのでしょうか。
なかには「医師の働き方改革って看護師に影響はないの?」と感じる看護師の方もいるでしょう。

 

そこで本記事では、医師の働き方改革が医療業界へおよぼす影響をくわしく解説します。最後までお読みいただくと、医師の働き方改革が看護師や地域医療に与える影響がわかります。

▼目次

1.医療業界の働き方改革とは

医療業界の働き方改革とは、医療従事者が健康的に安心して働くことのできる医療現場をつくることです。

 

医療機関では、医療従事者の業務が重労働であることや高齢化による医療の需要の増加などによって、医療従事者を確保しにくい状況です。

 

一方で、質の高い医療の提供が求められ、それには労働環境の改善が必要だとされています。
労働環境が改善すれば医療従事者が魅力を感じる医療機関になり、職員が定着しやすくなるでしょう。さらに、医療の質が高くなると患者満足度の向上や経営の安定化が期待できます。

2.医師の働き方改革の3つのポイント

2024年4月に施行された医師の働き方改革を3つのポイントにしぼり、くわしく解説します。

1.時間外労働・休日労働時間の上限(月100時間未満/年960時間以下)

医師の働き方改革で、時間外労働と休日労働時間の上限が設けられました。
一般の会社員と同じように、上限は「月100時間未満、年間960時間以下」です。ただし、以下の場合は「月100時間未満、年間1860時間」まで時間外労働が認められます。

 

• 地域の医療提供の体制を確保するため
• 医師の派遣をすることで地域の医療提供の体制を確保するため
• スキルの修得または向上を目的とした研修を集中的におこなうため
参考:
厚生労働省「医師の働き方改革の制度について」

 

しかし、長時間労働がつづくことで医師が健康的に働きつづけることは難しく、高齢化にともなう医療の需要の増加に対応できない可能性があります。

 

そのため、医師の働き方改革で時間外労働・休日労働時間の上限が設けられました。時間外労働や休日労働時間の上限が決められたことで医師が健康的に働きつづけられ、質の高い安全な医療を患者さまに提供しつづけられるでしょう。

2.労務管理の改善

医師の労働時間を正しく把握するため、労務管理の改善が求められます。
これまで医師の労働時間はあいまいでした。
厚生労働省の調査で、残業の申告は「本人の自己申告」がもっとも多く、実際に働いている時間どおりに申告していない医師もいることが明らかとなりました。

 

また、宿日直や呼出当番など医師の働き方が不規則であることも、医師の労働時間をあいまいにしていた要素のひとつです。

 

しかし、医師の働き方改革で時間外労働に上限が定められたことから、より正確に労働時間を把握しなければなりません。
そのため、医療機関によっては勤怠システムを導入したり、労務管理の対策を練ったりなど改善が必要となるでしょう。

3.タスクシフト/シェアの推進

タスクシフト/シェアとは、医師でなくても可能な業務を看護師や薬剤師などの医療従事者に分担することです。
患者さまや家族への病状説明や記録作成など、医師に業務が集中しやすくなります。この膨大なタスクをほかの医療従事者に分散して医師の負担を減らすことで、医師の労働時間の削減につながります。

 

つまり、医師の働き方改革の実現には、医療機関全体で取り組まなければなりません。すべての医療従事者が自らの能力を活かし、積極的に対応することが重要と言えるでしょう。

関連記事:▼タスクシフトとは?4つのメリットやデメリットを詳しく紹介

3.医師の働き方改革が医療業界に与える影響

医師の働き方改革は、以下のように医師だけでなく医療業界全体に影響します。

 

• 看護師へのタスクシフト/シェア
• 地域の病床や在宅医療・介護の支援体制を整備

看護師へのタスクシフト/シェア

先述したとおり、医師の働き方改革で医療従事者へのタスクシフト/シェアがおこなわれます。
そのなかでも看護師は、医師の診療を補助するため、タスクシフト/シェアする業務はほかの医療従事者より多くなります。以下に看護師へタスクシフトする業務の一部をまとめました。

 

看護師へタスクシフトする業務(一部抜粋)
•特定行為(38行為21区分、特定行為研修修了者のみ)
•薬剤の投与、採血・検査の実施(要プロトコール)
•救急外来における血液検査オーダー(要プロトコール)
•注射、ワクチン接種
•動脈ラインからの採血
•動脈ラインの抜去および止血
•尿道カテーテル留置

▼参考:日本医師会「都道府県医師会 医師の働き方改革担当理事 連絡協議会」

 

単に医師の業務を看護師にタスクシフトだけでは、看護師への負担が大きくなります。そのため、看護補助者やほかの医療従事者との協働を進めていかなければなりません。

 

たとえば「服薬指導は薬剤師」「口腔ケアは歯科衛生士」などの、看護師の業務をほかの医療従事者に移行する方法があります。

 

医療機関全体が各職種の役割や業務分担の見直しができると、看護師への負担を減らせるでしょう。

地域の病床や在宅医療・介護の支援体制を整備

医師の働き方改革が、地域医療にも影響する可能性があります。
厚生労働省の医師の働き方改革の推進に関する検討会によると、医師の労働時間短縮により「診療体制が縮小する見込み」とすると回答した医療機関が6.2%であることがわかりました。
日本医師会の調査でも救急医療体制または専門的な医療提供体制の縮小・撤退を示した医療機関があります。

 

これらの結果から、地域の診療所の病床確保や在宅医療・介護の支援体制の整備が必要となるでしょう。
というのも、医療機関の診療体制の縮小によって在宅で療養する患者さまが増えることが考えられるためです。

 

在宅医療は需要が高まる一方で、24時間体制や緊急時の対応があることから在宅診療を担う施設が増えないことが課題です。

 

そのため、医療機関の診療体制の縮小や撤退によって在宅診療にかかわる看護師への業務の負担も生じる恐れがあります。訪問看護ステーションや訪問介護事業所など、在宅医療にかかわる施設とのさらなる協働が求められるでしょう。

4.医師の働き方改革における医療現場の課題や問題点

医師の働き方改革は、一部で「実現するのは無理だ」という声があがっています。
その理由は以下のとおりです。

 

• 人員不足
• 勤務体系の複雑さ
• 医療業界の連携や将来への発展への支障

人員不足

医療現場では、人手不足が長年の課題です。
その理由として、医療従事者の業務量の多さや厳しい労働環境などがあげられます。
今後も、高齢化の進行により人手不足が加速し、医療がひっ迫することが想定されます。

 

こうした人手不足の状況で医師の働き方改革を実現することで、現状の医療体制が崩壊するのではないかと心配する声があがっているのです。

勤務体系の複雑さ

医師の勤務体系の複雑さが医師の働き方改革を阻害する要因となりえます。
一般企業に比べて、医師の勤務実態の把握は難しいです。
というのも医師の勤務体系は、日勤や夜勤だけでなく宿直や三交代制など、複雑で管理が難しいからです。

 

とはいえ、実態が把握できなければ時間外労働の上限を超えているか判断しづらいでしょう。
医師の勤務が複雑であるため、正しい労働の実態を把握するのに時間がかかります。そのため、医師の働き方改革を円滑に進めることが難しくなります。

医療業界の連携や将来の発展への支障

医師の働き方改革における時間外労働の上限が定められたことで、規模の大きい病院から地域病院への医師の派遣が少なくなると考えられています。
実際に、
日本医師会の調査で「医師の派遣をやめる」と答えた医療機関は25.1%ありました。
さらに、時間外労働の上限設定により、診療に集中せざるをえない状況になるため、研究や教育に使える時間も短くなるのではと心配されています。

 

こうしたことから、医療業界での連携がとりづらくなるだけでなく、将来的な医学分野の発展が妨げられる恐れもあります。

5.医療の働き方改革で良質な医療を目指す

2024年4月に医師を対象とした働き方改革の施策がおこなわれました。
医師の時間外労働の上限が設定され、ほかの医療従事者へのタスクシフト/シェアや地域の医療・介護の整備などが求められています。

 

医療従事者のなかで、医師の診療の補助ができる看護師への影響はとくに大きくなるでしょう。

 

医療従事者がそれぞれ専門性を発揮することで、医療現場の労働環境が改善されれば、良質な医療を提供できるでしょう。